ひな祭りの歌に隠された誤用の真相と都市伝説|名曲が宿す光と影

ひな祭りの歌に隠された誤用の真相と都市伝説|名曲が宿す光と影

ひな祭りの歌に隠された誤用の真相と都市伝説|名曲が宿す光と影にまつわる役立つ知識を詳しく紐解きます。

春の祝祭を歌ったはずの童謡が、なぜ作詞家自身の深い悔恨の対象となってしまったのか。その原因は、伝統的な有職故実(ゆうそくこじつ)に照らした際、歌詞の中に複数の決定的な事実誤認が含まれていた点にあります。

最大の誤用と指摘されるのが、1番の冒頭近くに登場する「お内裏様(だいりさま)とお雛様」という対句表現です。有職故実や人形業界の厳密な定義において、「内裏」とは天皇の宮殿そのものを指し、「内裏雛」とは最上段に鎮座する男雛と女雛の「一対(ペア)」を指す言葉です。つまり、男雛単体を「お内裏様」と呼び、女雛を「お雛様」と呼んで対比させるのは、言葉の構造上明らかな誤りでした。サトウハチローによるこの詩的表現が爆発的に普及した結果、日本全国で「殿=お内裏様、姫=お雛様」という誤った認識が一般常識として定着してしまったのです。

さらに3番では、雛壇の配置に関する視覚的な取り違えが生じています。

「すこし白酒 めされたか あかいおかおの 右大臣」と歌われますが、伝統的な雛壇飾りにおいて、酒に酔って顔を赤らめ、若々しい表情をしているのは向かって左側に配される「左大臣」ではなく、向かって右側に座す白髭の高官「左大臣」のほうです。雛人形の官位基準では、天皇から見て左側(鑑賞者から見て右側)が上位の左大臣であり、老齢で赤ら顔の姿に造形されます。一方の右大臣は若年で肌が白い青年の姿で作られるのが通例です。作詞時に鑑賞者側の左右と人形本来の左右が混乱し、「赤い顔=右大臣」という逆転現象がそのまま録音盤として世に出てしまいました。

のちに関係者が残した回想録や伝記によると、自身の教養不足と確認漏れによって誤った知識を日本中に広めてしまったことに対し、サトウハチローは痛烈な自責の念を抱き続けました。「あの歌は私の生涯最大の汚点だ」「できることなら世の中に出回っているレコードをすべて買い占めて叩き割りたい」と周囲に漏らし、晩年に至っても自身の代表作としてこの歌が称賛されることを極度に嫌がったという逸話は、文学界でも広く知られています。

伊藤 翔太
著者

伊藤 翔太

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。