山崎育三郎の名を演劇ファン以外のお茶の間へ決定的に浸透させたのが、2020年放送のNHK連続テレビ小説『エール』である。主人公・古山裕一の幼馴染であり、のちに歌手として大成する「プリンス久志」こと佐藤久志役を演じた。
特に視聴者の度肝を抜いたのが、劇中の夏の全国高校野球選手権大会歌『栄冠は君に輝く』を阪神甲子園球場のグラウンドで独唱したシーンだ。マイクを通さずとも球場全体に響き渡るような圧倒的倍音と、哀愁と希望が入り混じった絶唱は、放送直後からSNS上で驚嘆の声が溢れ返った。当時、Twitter(現X)では「山崎育三郎」「栄冠は君に輝く」がトレンドを独占し、視聴率・話題性ともに番組屈指のハイライトとなった。
従来、ミュージカル出身俳優が民放ドラマに進出する際、「声量が大きすぎる」「身振り手振りが演劇的で浮いてしまう」といったステレオタイプな批判に晒されるケースは少なくなかった。しかし山崎は、2015年の『下町ロケット』真野賢作役で抑えの利いた泥臭い演技を提示し、そうした固定観念を粉砕。
さらに『イチケイのカラス』では冷静沈着なエリート検事役、『リエゾン -こどものこころ診療所-』では発達障害を抱えながら子どもたちに寄り添う児童精神科医の院長役を繊細に演じ分けた。映像作品におけるカメラの距離感を計算し尽くした「引きの演技」を体得したことで、ドラマ界にとっても欠かせない主演・助演俳優としての確固たる評価を確立している。