現在の穏やかな活動の背景には、生命と表現者生命の双方に直面した過酷な闘病の歴史があります。財津和夫の病気と現在の体調を語るうえで避けて通れないのが、2017年6月に公表された「下咽頭がん(ステージ1)」の克服劇です。
当時、チューリップの45周年記念ツアーの真っ只中にあった財津は、腸閉塞の治療過程で行われた精密検査によって初期の下咽頭がんが偶然発見されました。医師からは声を失うリスクを伴う手術ではなく、ボーカリストとしての生命線を守るために放射線治療および抗がん剤治療が選択されました。ツアーの残席を払い戻し、治療に専念した日々について、本人はのちの手記や特番インタビューで「歌えなくなるかもしれないという恐怖と、生きるための闘いだった」と率直に吐露しています。
幸いにも早期発見であったこと、そして過酷な副作用に耐え抜いた治療が功を奏し、同年の秋には治療を終え、翌年にはステージ復帰を果たしました。医療統計における5年生存率の節目を優に超えた現在、定期的なメディカルチェックを欠かさず行いながら、健康的なコンディションをキープしています。
また、彼はがん罹患以前の60代前半に、男性特有の更年期障害やそれに伴ううつ症状に激しく苦しんだことも自著で赤裸々に告白しています。やる気の減退、原因不明の倦怠感、精神的な落ち込みに直面した際、自らの弱さを隠さず専門医の治療を受け、心身のバランスを取り戻していったプロセスは、中高年男性のメンタルヘルス啓発という観点からも高く評価されています。