一方で、ネット上では「プロポーズ大作戦より前に野村克也監督が言っていた」「江戸時代から伝わることわざではないか」という言説が今なお根強く見られます。これらの真偽はどうなのでしょうか。
まず、プロ野球の名将として名高い野村克也氏の発祥説についてです。野村氏は「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」(松浦静山の言葉の引用)をはじめ、数々の至言を遺しました。しかし、生前の野村氏の著書、球団公式記録、当時の番記者たちの取材録を精査しても、本人が「明日やろうは馬鹿野郎」と発言した公の記録は確認できません。
野村氏が指導の現場で「今日できる準備を明日に回すな」「思考を怠るな」と選手に説いていた厳格な姿勢と、語感の力強さが結びつき、ネット上の名言まとめサイト等で混同された可能性が極めて高いと分析されます。
次に、「伝統的な日本のことわざ」という説です。広辞苑をはじめとする主要な国語辞典や故事ことわざ辞典を調査しても、「明日やろうは馬鹿野郎」という項目は存在しません。日本の古典的なことわざにあるのは、以下のような表現です。
- 「思い立ったが吉日」:何かをしようという気持ちになったら、その日を吉日としてすぐ始めるべきだという教え。
- 「明日は明日の風が吹く」:明日のことは気に病むなという楽観的な意味合いで、むしろ正反対のニュアンス。
西洋の格言であれば、ベンジャミン・フランクリンの「今日できることを明日に延ばすな(Never put off till tomorrow what may be done today)」が有名です。「明日やろうは馬鹿野郎」というリズミカルで荒々しい口語体は、古来の格言ではなく、日本の昭和・平成期の現場言葉や口承表現、あるいは脚本家の巧みな筆致によって生まれた現代的なフレーズであると結論づけられます。