スーパーの乳製品売り場で迷う最大の原因は、商品パッケージに並ぶ「プロセスチーズ」と「ナチュラルチーズ」の識別基準が一般消費者に正しく共有されていない点にあります。両者の安全性における決定的な境界線は、その製造工程における「加熱処理の有無」に集約されます。
プロセスチーズとナチュラルチーズの違いを製造科学の視点から分解すると、プロセスチーズは1種類または複数種類のナチュラルチーズを細かく砕き、乳化剤を加えて加熱溶融(通常80〜85℃程度で数分間)して均一に固め直した製品です。製造工程の最終段階でリステリア菌を含むすべての病原性微生物が完全に死滅するため、未開封の密閉状態である限り、プロセスチーズからリステリア菌が検出される可能性は理論上ゼロです。スライスチーズ、6Pチーズ、キャンディチーズなど、原材料名に「プロセスチーズ」と明記されているものは、妊婦がそのまま冷たい状態で口にしても何ら危険はありません。
国産ナチュラルチーズ安全性の真相には、法律上の厳格な枠組みが存在します。日本の乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)では、国内で販売・加工される原料乳に対して「63℃で30分間加熱殺菌するか、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること」が義務付けられています。雪印メグミルク、明治、森永乳業といった国内大手メーカーが自社工場で大量生産しているモッツァレラやカマンベールなどのナチュラルチーズは、殺菌済みの乳を原料としているため、工場出荷時点でのリステリア汚染リスクは極限まで抑え込まれています。
注意を要するのが輸入ナチュラルチーズ未殺菌乳の危険性です。フランス、イタリアなどの伝統的なチーズ生産国では、乳本来の風味や伝統製法を重んじる文化から、加熱殺菌を施していない「無殺菌乳(Lait cru / 生乳)」を用いたアルチザン(伝統職人)チーズが日常的に製造・流通しています。これらは正規輸入であっても現地の伝統基準のまま日本市場に入り込むケースがあり、検疫所のモニタリング検査をすり抜けた微量な菌が、流通・保管時の温度変化によって増殖するリスクを否定できません。高級スーパーやデパ地下、輸入食品専門店で販売されている海外直輸入のナチュラルチーズを生食することは、妊娠期間中においては明白なハイリスク行動と断ぜざるを得ません。