なぜハンニバル・レクターは、このような怪物へと変貌してしまったのか。その謎は、前日譚を描いた小説および映画『ハンニバル・ライジング』において明かされています。
名門貴族の家系に生まれたハンニバルの過去のトラウマの経緯は、第二次世界大戦末期のリトアニアに遡ります。戦火を逃れて森の別荘に隠れ住んでいたレクター一家でしたが、両親は空爆によって死亡。残された幼いハンニバルと、彼が心から愛していた妹ミーシャは、飢えと寒さに狂乱した対独協力者の脱走兵グループに囚われてしまいます。
極寒の飢餓状態の中で、脱走兵たちは幼いミーシャを殺害し、その肉を煮込んで口にしました。さらに恐るべきことに、脱走兵たちは衰弱していたハンニバル本人にも、それが妹の肉であると知らせずにスープとして与えていたのです。戦後、記憶を取り戻したハンニバルは、自らが妹を「食べて生き延びてしまった」という耐え難い原罪とトラウマに直面します。
この凄惨な体験によって、彼の内なる神への信仰や人間的感情は完全に死に絶えました。「神が妹を救わなかったのなら、自分が神に代わって復讐と審判を行う」という決意が、妹を喰らった略奪者たちへの冷酷な復讐劇へと繋がり、やがて彼の歪んだ食人哲学の根源となったのです。