「すりおろして時間が経った大根おろしが、なぜか茶色っぽく濁り、独特のピリッとした辛味が消えてしまう」という現象には、明確な生化学的理由が存在します。
大根特有の辛味成分は「イソチオシアネート」と呼ばれる揮発性の高いイオウ化合物です。大根の細胞内に含まれる「グルコシノレート」と「ミロシナーゼ」という酵素が、すりおろすことで混ざり合って辛味が発生します。しかし、このイソチオシアネートは極めて揮発しやすく、すりおろしてから約15分〜30分をピークにどんどん空気中へと逃げていきます。
一方、大根おろしが黄色や褐色に変色する原因は、大根に含まれるポリフェノール系物質が酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の働きによって酸素と反応するためです。すりおろしたことで酸素との接触面積が最大化し、放置するほど酸化が進行します。
この変色と風味の劣化を防止する決定的な裏ワザが、「微量の酸(レモン汁または酢)の添加」です。
酸性成分を加えることでpHが酸性側に傾き、酸化酵素の活性が劇的に低下します。大根おろし1カップ(約200g)に対して、レモン汁または酢を小さじ1/4〜1/2程度(数滴)混ぜ合わせるだけで、料理の味を損なうことなく、白く澄んだ美しい色合いとみずみずしさを長く保つことができます。