ネット上の情報やSNSでは「300キロのマグロなら無条件で大金持ちになれる」「大きければ大きいほどトロが多くて旨い」といった言説が散見されますが、市場のプロフェッショナルが見る現実は異なります。
第一の誤解は、「サイズに比例して味も極上になる」という思い込みです。マグロは針にかかってから船上に引き揚げられるまでのファイト時間が長引くほど、自身の体温が異常上昇して身が白く変色・劣化する「ヤケ(身焼け)」という致命的な現象が起きます。300キロ級の巨体となるとファイトに数時間を要することも多く、内部熱が逃げにくいため、中心部の赤身が熱で煮えたような状態になって商品価値が数分の一に暴落してしまうリスクを常に孕んでいます。
第二の盲点は、水揚げされたマグロの流通プロセスにおける「目利き」の厳しさです。尾の断面(尾切り)から身質、脂のキメ、色合い、水分量を瞬時に見抜く仲卸の査定は極めてシビアであり、たとえ大間産の300キロであっても、脂の乗っていない「赤身勝ち(痩せ型)」個体であればキロあたり数千円台で取引されるケースも存在します。怪物級マグロが高額で落札されるためには、「300キロの巨躯」「真冬の極上脂」「身焼けのない完璧な処理」という3つの奇跡が同時に揃わなければなりません。