医療従事者や災害心理学の研究者が強く警鐘を鳴らし続けているのが、人間の心理機構である「正常性バイアス(Normalcy bias)」の罠です。
人間は予期せぬ身体の異変に直面した際、本能的に「自分だけは大丈夫だ」「これはただの筋肉痛に違いない」「疲れているから明日になれば治る」と、都合の良い解釈をして心の平穏を保とうとする強い心理的傾向を持っています。とりわけ日本社会では、「夜間に救急車を呼んで近所に迷惑をかけたくない」「翌日の仕事に穴を開けられない」という世間体や責任感が働き、結果として受診が翌朝以降に遅れ、命を落とす痛ましいケースが後を絶ちません。
「肩が痛いだけなのに救急車を呼ぶのは恥ずかしい」という心理的抵抗感は、直ちに捨て去らなければなりません。
【即座に受診・通報を決断すべき基準】
- 左肩の重苦しい痛みとともに、冷や汗や息苦しさを一度でも感じた人
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴があり、原因不明の肩こりが急に悪化した人
- 背中から肩にかけて「引き裂かれるような鋭い激痛」が突如走った人
判断に迷う深夜や休日は、全国共通の救急相談窓口である救急安心センター事業(#7119)へダイヤルしてください。専門の医師や看護師が症状を聞き取り、緊急搬送の要否を客観的に判定してくれます。「万が一違ったらどうしよう」とためらう必要はありません。「空振り(結果として筋肉痛だった)」は笑い話で済みますが、心臓疾患の「見逃し」には取り返しのつかない致命的な結末が待っています。