台東区役所の西横という立地は、この店に独特のリズムを与えている。午前中の住民票申請を終えた市民がひと息つき、午後には職員が書類の束を抱えて打ち合わせにやってくる。都市の機能がめまぐるしく移り変わる中で、桂は常に変わらぬ顔で扉を開け続けてきた。
大手チェーンが席巻する現代の飲食・喫茶サービス業において、個人の店主がカウンターに立ち続けることの困難さは想像を絶する。原価の高騰や人手不足の波が押し寄せる中でも、水出し器具のガラス管を丹念に磨き、銀色のシュガーポットを清潔に保つ。客がドアを開けた瞬間に「いらっしゃい」と響く穏やかな声。マニュアルでは決して再現できない人間味こそが、この激動の時代を生き抜く最大の武器なのだ。