敬語の使い分けを曖昧にしたままでは、知らず知らずのうちに相手へ失礼を重ねてしまいます。ここで一度、文化庁の『敬語の指針』でも整理されている「謙譲語Ⅰ」と「丁重語(謙譲語Ⅱ)」の明確な違いを整理しておく必要があります。
文化庁の分類において、両者は以下のように定義されています。
【謙譲語Ⅰ】自分の側の行為を低め、その行為が向かう相手(客体)を高めて敬意を示す表現。「申し上げる」「差し上げる」「伺う」などが該当します。
【丁重語(謙譲語Ⅱ)】相手とは直接関係なく、自分の行為や状態を改まった丁寧な言葉遣いで述べることで、話を聞いている相手全般に対して丁重さを示す表現。「存じる」「参る」「申す」「いたす」などが該当します。
この2つの違いを把握すると、「お願いしたく存じますとお願い申し上げますの違い」が鮮明になります。
「お願い申し上げます」は、「願う」という行為を謙譲語Ⅰ「申し上げる」でへりくだらせており、敬意のベクトルが明確に相手へ向かっています。一方で「お願いしたく存じます」は、「思う」を丁重語「存じます」に変えているだけであるため、敬意が相手の存在そのものへ向かわず、単に「改まった口調で自己の願望を語る」という歪な構図を生み出してしまうのです。