民撰議院設立建白書に関しては、現代の教科書的な理解において見落とされがちな歴史的盲点が存在します。
第一の盲点は、「彼らが求めたのは現代のような普通選挙ではなかった」という点です。建白書に記された参政権の対象は、主に「士族および豪農・豪商(富裕層)」でした。当時の指導者層にとっての「民」とは、社会の指導力と納税能力を持つ階層を指しており、一般庶民すべてへの投票権付与を意図したものではありませんでした。
第二の盲点は、メディア戦略の巧妙さです。建白書は政府へ提出されると同時に、イギリス人ジョン・レディ・ブラックが経営する英字系邦字紙『日清真事誌』へリークされ、全文が一般に公開されました。当時、日本人が発行する新聞は政府の厳しい言論統制(新聞紙条例など)下にありましたが、治外法権を持つ外国人が経営する新聞社を利用することで、政府の検閲をすり抜けて世論を一気に味方につけたのです。