なぜ「お金を貸してくれる芸能人がいる」という荒唐無稽な言説が、これほどまでに信じられてしまうのでしょうか。そこには、昭和から平成にかけてワイドショーやバラエティ番組を賑わせた、芸能界特有の豪快なエピソードの歪んだ伝播があります。
かつてビートたけし氏が弟子たちの借金を人知れず清算した逸話や、明石家さんま氏が後輩芸人の困窮を見かねて食事や仕事を工面した話など、芸能人借金肩代わりの噂は枚挙にいとまがありません。当時の特番インタビューや自著・手記で語られた「芸の肥やし」「男気」としての金銭支援は、あくまで過酷な下積み生活を共にする身内や師弟関係という、強固な人間関係と信頼を基盤にしたものでした。しかし、これらの美談がインターネットやSNSの断片的なまとめ記事として拡散される過程で、「金銭的に余裕がある大御所芸能人なら、困窮しているファンや一般人にも手を差し伸べてくれるのではないか」という都合の良い幻想へと変質してしまったのです。
現行法規の観点からも、芸能人が一般人に金銭を貸し付ける行為は現実的ではありません。不特定多数に対して反復継続してお金を貸す行為は、貸金業法における「貸金業」に該当し、国や都道府県への正式な登録が必要です。無登録でこれを行えば、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)が科される重罪となります。法務・コンプライアンス管理が徹底されている現代の芸能事務所において、タレントが法的リスクを冒して見知らぬ他人に融資を行うことなど、100%あり得ない判断です。