暖簾をくぐった初見の旅行者がまず驚くのが、立ち上る湯気とともに漂う濃厚なごま油の香りです。「珍達そば 本店」をはじめとする店舗で提供されているのは、いわゆる蕎麦粉を使った日本蕎麦ではなく、極細の中華麺を用いた秩父名物 ご当地ラーメンです。
このユニークな名称の背景には、日本の食文化史が深く関わっています。昭和中期頃まで、ラーメンは全国的に「中華そば」や「支那そば」と呼ばれて親しまれていました。創業者が「他に類を見ない珍しく達した味(珍達)」を追求し、親しみやすさを込めて「珍達そば」と命名したことが始まりとされています。つまり、看板の「そば」は中華そばを指す言葉であり、看板倒れではなく、れっきとした歴史の証左なのです。
地元・秩父市民にとっては、幼少期から慣れ親しんだ家庭的かつ特別な外食であり、現在ではメディアやSNSを通じて「全国からわざわざ食べに行くべき幻のネギラーメン」として定着しています。