俳優・伊原剛志を語る際、避けて通れないのが「実業家」としての非凡な才能です。芸能人の副業といえば名義貸しやプロデュース止まりのケースが少なくありませんが、彼の場合は文字通り「経営者として現場に立ち、数字と格闘した」本物のビジネスマンでした。
原点は1990年代初頭に遡ります。俳優として仕事が不安定だった時期、「自分の腕一本で食える基盤を作らなければならない」と一念発起し、大阪の味を東京に広めるべくお好み焼き・鉄板焼き店「ぼちぼち」を創業しました。自ら厨房に立って鉄板でキャベツを刻み、接客のオペレーションから仕入れルートの開拓まで徹底的に泥臭い現場作業をこなしたといいます。
昭和レトロな内装と確かな味、圧倒的な客席回転率の高さが話題を呼び、店舗は瞬く間に大繁盛。フランチャイズ展開や焼肉チェーンの展開など多角化を進め、ピーク時のグループ年商は数十億円規模に達しました。当時の伊原の個人年収も億単位に達していたと経済誌で報じられており、まさに「芸能界最強の青年実業家」として名を馳せました。
しかし、経営規模が巨大化するにつれ、現場の統率や経営判断に割かれるエネルギーが俳優業を圧迫するようになります。彼は自著やインタビューの中で「自分はあくまで表現者であり、役者として勝負したい」という原点を見つめ直し、やがて保有株式の売却や事業譲渡を決断。巨額の富に固執することなく、再び演技の世界へと身を投じました。