「赤虎とは一体何なのか?」という問いに対し、現代の日本で最も実利的な答えとなるのが、山梨県原産の日本犬種である甲斐犬赤虎の存在です。1934年(昭和9年)に国の天然記念物に指定された甲斐犬は、険しい南アルプスの山岳地帯で猪や鹿、熊を相手に命懸けで対峙してきた純粋な和犬猟犬です。
甲斐犬の血統を守り続ける公益社団法人甲斐犬愛護会では、犬種標準(スタンダード)として「黒虎(くろとら)」「中虎(ちゅうとら)」「赤虎(あかとら)」の3種類を認容しています。このうち最もポピュラーなのが全身の多くを黒の差し毛が覆う黒虎であり、中間的な中虎がそれに続きます。そして、最も出生数が少なく、愛好家垂涎の的となっているのが「赤虎毛(あかとらげ)」です。
専門ブリーダーの繁殖データや血統登録の推移を検証すると、赤虎が生まれる確率は全体の約5〜10%前後に過ぎません。赤虎毛は遺伝的にメラニン色素の発色バランスが絶妙に揃った場合にのみ現れる劣性寄りの表現形であり、両親のどちらかが赤虎であっても必ずしも子が赤虎になるとは限らないという生物学的な難しさがあります。山野の岩肌や枯れ草に溶け込む究極の迷彩塗装(カムフラージュ)として機能したこの毛色は、まさに南アルプスの厳しい自然が生み出した奇跡の産物と言えます。