渥美二郎の歌声を語る上で外せないのが、十代後半から東京・新宿歌舞伎町で重ねた「流し(ギター1本で酒場を巡り客のリクエストに応える演奏形態)」の下積み経験です。公称で1万曲以上のレパートリーを誇り、雑踏や酔客の騒音の中でも確実に客の耳を捉える発声と、わずか数小節で聴き手を引き込む表現力はこの現場で培われました。
ネット上の音楽コミュニティやSNSに寄せられた当時のリスナーの生の声を見ても、渥美版の魅力はその独特の「泣き」の成分にあることが分かります。
「チョー・ヨンピルさんのバージョンは雄大で胸を打たれるが、夜中に一人でウイスキーを飲みながら聴きたくなるのは間違いなく渥美二郎さんの『釜山港へ帰れ』。ギターの爪弾きとあの甘く切ないファルセットの使い分けは唯一無二」(50代・男性歌謡ファン)
「カラオケで歌おうとすると、渥美二郎さんのこぶしの繊細さがどれほど高い技術に基づいているか痛感させられる。ただ声を張り上げるのではない、引き算の美学がある」(60代・音楽指導者)
激しいビートで押し切るのではなく、語尾の消え際や息遣いにまで情感を行き渡らせる渥美二郎のボーカルスタイルは、まさに日本の「盛り場演歌」の真骨頂でした。