記号の始まりは、はるか昔の地中海世界にさかのぼる。当時の人々は夜空に輝く惑星を観察し、ギリシャ神話の神々の姿をそこ重ね合わせた。雄々しい赤色を放つ火星には軍神アレス(ローマ神話のマーズ)を連想し、その武器である槍と盾をデザイン化した。これが現代に伝わる火星記号(♂)である。一方、優美な輝きを誇る金星には、愛と美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)の手鏡を描いた金星記号(♀)が割り当てられた。
つまり、もともとは性別を示すためのマークではなく、天文学や占星術で特定の天体を指し示すための符号だった。中世ヨーロッパの錬金術師たちもまた、これらの符号を鉄(♂)や銅(♀)といった金属を識別する手軽な手段として重宝していた。古代の星空観察から始まった図形は、長い年月を経て学術的な暗号のように受け継がれていく。