「肩の筋肉に炎症がないのに、なぜ心臓の異常で肩が痛くなるのか」――この現象を医学用語で「放散痛(放射痛・関連痛)」と呼びます。
心臓の感覚神経と、左肩や左腕、左側の背中・顎を支配する知覚神経は、脊髄の同じ高さ(胸髄および頸髄領域)を経由して脳へと信号を送っています。心筋の酸素不足(虚血)により心臓から激しい痛みのSOSが発信された際、脳がその痛みの発生源を誤認し、「左肩や腕が痛い」と錯覚してしまうのです。
日本循環器学会のガイドラインや救急搬送データにおいても、急性心筋梗塞を発症した患者の約20〜30%が、典型的な前胸部痛だけでなく左肩の痛み、左腕の内側の重だるさ、奥歯の浮くような痛みなどの非典型的症状を訴えていると報告されています。「胸はそれほど苦しくないが、左肩と背中が妙に重苦しい」という初期症状を見逃してはなりません。