映画『ファントム・スレッド』に描かれた厳格なオートクチュールの世界を引き合いに出すまでもなく、歴史ある名門の仕立て屋は一様に「ボタン付けこそ服作りの要」だと語ります。市販の洋服で留め具が脱落しやすい最大の理由は、布地と留め具の隙間を埋める「糸足(いとあし)」の欠如にあります。
布とパーツを完全に密着させて縫い付けてしまうと、前立てを留めた際に生地の厚みで無理な引っ張りテンションがかかります。この摩擦と負荷の繰り返しが、繊維産業が生み出す頑丈なポリエステル糸であっても容易に断線させてしまうのです。適度なゆとりを持たせ、根元に糸を巻き付けて頑丈な柱を作る。このシンプルな構造の有無が、耐久性を決定づけます。