彼女のキャリアを語る上で、決して避けて通れないのが北野武監督との邂逅である。バラエティ番組での親交を経て、映画監督・北野武のミューズとしてスクリーンに立ったとき、岸本加世子の演技力は世界的な評価を受ける次元へと到達した。
ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞に輝いた『HANA-BI』において、彼女が演じたのは不治の病に冒された主人公の妻。劇中、セリフは極限まで削ぎ落とされていた。言葉を発することなく、夫を見つめる微かな微笑み、風に揺れる佇まいだけで、夫婦の深い情愛と死の影を表現しきった。続く『菊次郎の夏』でも、物語の核心を支える重要な役割を見事に演じ切る。北野映画特有の静謐なトーンの中で、彼女が放つ静かな情熱と人間味は、世界中の映画ファンを深く魅了した。