100メートルの歴史は、人類が「10秒の壁」をいかに打ち破ってきたかの軌跡そのものです。電動計時が完全導入される以前の手動計時時代、1968年メキシコ五輪でジム・ハインズ(アメリカ)が人類史上初の公認9秒台となる9秒95をマークしました。
その後、カール・ルイスが9秒86、モーリス・グリーンが9秒79と小刻みに記録を削り、2000年代中盤にはアサファ・パウエルが9秒77、9秒74へと押し上げました。当時、専門家の間では「100mの世界記録は0.01秒ずつ削るのが限界」と信じられていたのです。その常識を完全に破壊したのがウサイン・ボルトでした。
ボルトは2008年5月に9秒72で世界記録を樹立すると、同年8月の北京五輪決勝で最後は両手を広げて胸を叩きながら9秒69を記録。さらに翌2009年のベルリン世界陸上において、一気に0.11秒も縮める9秒58という天文学的数値を叩き出しました。陸上短距離の歴史において、記録が一度に0.1秒以上更新されたのは電動計時導入以降、前代未聞の事件でした。