趣里を語る上で避けて通れないのが、その家族構成です。父親は国民的刑事ドラマ『相棒』で知られる名優・水谷豊、母親は伝説のアイドルグループ「キャンディーズ」のメンバーであり現在も女優・歌手として第一線で輝く伊藤蘭。彼女は二人の間に生まれた一人娘であり、本名は水谷趣里(みずたに しゅり)です。
日本芸能界において、超大物芸能人の子どもがいわゆる「二世タレント」としてデビューする場合、往々にして親の威光やコネクションを全面に押し出したプロモーションが行われがちです。昭和・平成の芸能界では、過剰に親が干渉するステージママ文化や、親の七光りによる安易な露出が批判の的となり、結果として本人がアイデンティティを見失う「共依存」の構図が頻繁に見受けられました。
しかし、水谷家が敷いた方針は真逆でした。趣里自身が「両親の名前には絶対に頼らない」と誓い、芸名から苗字の「水谷」を外して活動を開始。デビュー当初は親の名を一切伏せ、小劇場のオーディションを自力で受け歩く下積み生活を何年も続けました。
家族社会学の観点から見れば、これは極めて健全な「心理的バウンダリー(境界線)」の確立といえます。親側も娘の仕事に一切口出しをせず、劇場の一観客としてチケットを購入して静かに見守る姿勢を貫きました。親の影に守られるのではなく、実力ひとつで映画賞の新人賞や主演女優賞を勝ち取ってきたからこそ、趣里は世間の冷ややかな「二世アレルギー」を完全に克服し、一人の孤高な女優としての尊厳を確立したのです。