検索エンジンやSNSで「春日部駅 高架化」と検索すると、サジェスト上位に必ず現れるのが「なぜ遅い」という言葉です。計画自体の構想は数十年前から存在し、事業化決定からも長い年月が経過しているため、ネット上では「行政の怠慢ではないか」「予算がつかないのではないか」といった懐疑的な憶測が飛び交ってきました。しかし、取材と公式記録を照らし合わせると、遅延の背景には土木技術的・都市構造的な3つの重大な壁が存在していたことが分かります。
第一の要因は、「2大動脈が地上で交差する運行密度の高さ」です。春日部駅は都心へ直結する伊勢崎線(東武スカイツリーライン)と、大宮・柏方面を東西に結ぶ野田線(東武アーバンパークライン)が平面で合流・接続する要衝です。1日数十万人規模の利用客を抱え、特急スペーシアXや相互直通の地下鉄車両がひっきりなしに行き交う過密ダイヤを1本たりとも止めることなく、狭隘な敷地内で仮線スペースを確保しながら線路を何段階もスライドさせる施工は、国内の鉄道工事のなかでも屈指の高難度を誇ります。
第二の要因は、「旧宿場町特有の複雑な権利関係と過密な用地買収」です。日光街道の宿場町として古くから発展してきた春日部駅周辺は、駅至近まで中小の店舗や個人住宅が密集しており、区画整理と立ち退き交渉に膨大な年月を要しました。地権者一人ひとりとの丁寧な合意形成を法に則って進めた結果、物理的な着工までに想定以上の時間を費やすこととなりました。
第三の要因は、「地下化ではなく高架化を選択した治水・地盤上の制約」です。春日部市一帯は古隅田川や中川水系に囲まれた低地盤地域であり、過去に幾度も浸水被害を経験しています。地下化を選択した場合、出水時の水没リスク対策や軟弱地盤対策で事業費が天文学的に跳ね上がる懸念がありました。結果として高架化が最善と判断されましたが、周辺道路とのクリアランス調整や桁下高の確保、騒音対策の設計に慎重な検討が重ねられた歴史があります。