蹴上駅から地上に出てすぐ目の前に広がるのが、かつて琵琶湖疏水の舟運を支えた傾斜鉄道跡「蹴上インクライン」です。全長約582メートルのレール沿いに約90本のソメイヨシノや山桜がアーチを描く光景は、京都を代表する春の絶景として知られています。
例年の桜の見頃は3月下旬から4月上旬。近年は温暖化の影響で開花が早まる年もあり、京都市観光協会のリアルタイム開花情報を直前にチェックしておくことが欠かせません。
ネット上には「線路の真ん中で優雅に撮影できる」といった写真が溢れていますが、日中の現場は身動きが取りづらいほどの人波で埋め尽くされます。落ち着いた雰囲気のなかでレールと桜が織りなす直線美を撮影したい場合、午前6時30分から7時30分の時間帯に訪れるのが唯一の解決策です。朝の澄んだ光が斜面に差し込み、陰影の美しい写真が狙えます。
このインクラインは単なる映えスポットではなく、明治維新後の京都復興を賭けた大事業「琵琶湖疏水」の象徴です。高低差約36メートルの傾斜を船ごと台車に乗せて運ぶ画期的な土木技術であり、その動力源となったのが日本初の営業用水力発電所である蹴上発電所でした。発電所がもたらした電力は、日本初の路面電車(京都電気鉄道)を走らせ、近代京都の産業発展の原動力となった歴史的背景を知ることで、目の前の風景はより深い輝きを帯びてきます。