セルフケアを始める前に、まず押さえておきたいのが「縫工筋の場所はどこにあるのか」という解剖学的な位置関係です。縫工筋は、骨盤の前面にある上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく:腰骨の出っ張り)から起始し、太ももの前側を斜めに横切って、膝の内側やや下方にある「鵞足(がそく)」と呼ばれる部位に停止します。成人で全長約50cm前後に達する、人体の中で最も長い単一筋肉です。
かつてあぐらをかいて仕立て仕事を行う仕立屋(裁縫職人=Sartor)がよく使った筋肉であることから、ラテン語で「Sartorius」、日本語で「縫工筋」と名付けられました。この筋肉は股関節と膝関節の2つをまたぐ「二関節筋」であり、股関節の屈曲(曲げる)・外転(開く)・外旋(外にひねる)と、膝関節の屈曲・内旋(内側に絞る)という複雑な複合運動を一手に担っています。
では、なぜこの縫工筋が痛む理由として現代人に急増しているのでしょうか。最大の引き金は「座り姿勢の固定化」にあります。デスクワークで脚を組む癖、椅子の下で足首を交差させる姿勢、あるいは床でのあぐらや横座りを長時間続けると、縫工筋は短縮した状態で硬直します。縮みきったゴム紐のようになった筋肉は、立ち上がったり歩行したりするたびに付着部である膝の内側を強く引っ張り続け、微小な牽引ストレスと微細損傷を発生させるのです。