ネット上には「カピバラの仲間だから温厚」「近づいて餌をあげたら手から食べてくれた」といった無邪気な投稿が散見される。しかし、野生動物の管理現場から見れば、これは極めて危険な行為と言わざるを得ない。
まず警戒すべきは、ヌートリアの危険性と狂犬病リスクを含む人獣共通感染症の脅威だ。海外の一部生息地域では狂犬病の自然宿主媒介リスクが注視されているほか、国内の野生個体からもレプトスピラ症(ワイル病)や野兎病の病原体、マダニ媒介性の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の保菌が懸念されている。泥深い水辺を生息域とするため、体毛や体液には無数の雑菌が付着している。
さらに物理的な攻撃力も侮れない。草食性主体の動物でありながら、頑丈な樹皮や貝殻すら噛み砕く切歯の咬合力(こうごうりょく)は凄まじい。不用意に手を差し伸べた人間が指を深く噛み裂かれ、腱や骨に重傷を負う咬傷事故が各地で報告されている。警戒心が薄く見えるのは、人間に対する親愛ではなく「警戒のフリーズ反応」に過ぎない場合が多く、一定の距離を越えて踏み込めば反射的に牙を剥く。
「動物園からカピバラが脱走して野生化したのではないか」という憶測もネット上で根強いが、日本の河川でカピバラが自然繁殖してコロニーを形成することは気候学的に考えにくい。後述するように、寒さに極端に弱いカピバラが人工加温施設のない日本の自然河川で越冬することは不可能に近く、川で見かける個体はほぼ間違いなくヌートリアである。