名言が生まれた背景と理由を語る上で欠かせないのが、サン=テグジュペリ自身の壮絶な飛行士体験です。1935年12月、彼はパリ・サイゴン間最短時間飛行レースの挑戦中に機体トラブルに見舞われ、エジプトとリビアにまたがる広大なリビア砂漠に時速約270キロで墜落しました。
水も食料も尽き、激しい渇きと幻覚の中で4日間にわたり砂漠を彷徨った体験は、後の自伝的著作『人間の土地(Terre des hommes)』に克明に記録されています。地平線の果てまで何もない砂と岩の世界で、生死の淵に立たされた彼を支えたのは、口座の預金でも名声でもなく、遠く離れた故郷の妻コンスエロの面影や、飛行機乗り仲間との絆でした。
「人間を真に動かすものは、目に見える物質的充足ではない」――極限状態の砂漠でサン=テグジュペリが身をもって体験した実感こそが、『星の王子さま』の物語構造そのものです。飛行機が砂漠に不時着し、そこで不思議な少年と出会うという設定は、作家自身の死線体験の直接的な投影に他なりません。さらに、1940年のフランス敗戦に伴い亡命したニューヨークで、第二次世界大戦の泥沼化に心を痛めながら執筆されたという歴史的文脈が、この言葉に「混迷する人間社会への警鐘」という重層的な切実さを与えています。