猫が1日の大半を横たわって過ごす様子を目にすると、「どこか悪いのではないか」と不安がよぎるのは自然な親心です。しかし、医学的な見地から見れば、猫が長時間寝ること自体は捕食者として進化してきた過程で獲得した合理的な生存戦略にほかなりません。
野生時代の猫は、肉食動物として狩りに膨大な瞬発的エネルギーを消費していました。獲物を待ち伏せ、一瞬のダッシュで仕留めるという狩猟スタイルを維持するため、狩り以外の時間は徹底して体力を温存する必要があったのです。その名残として、室内で安全に暮らす家庭猫であっても、本能的に無駄な代謝を抑えて眠る習性が遺伝子レベルで刻み込まれています。
ここで知っておくべき決定的な事実は、猫の睡眠構造の内訳です。猫の全睡眠時間のうち、約75〜80%は浅い眠りである「レム睡眠」が占めています。レム睡眠中の猫は、筋肉は弛緩しているものの脳は覚醒に近い待機状態にあり、周囲のかすかな物音や気配に対して耳をピクピクと動かしたり、目を開けたりすることが可能です。身体の細胞修復や成長ホルモン分泌を担う深い眠り(ノンレム睡眠)は、わずか20〜25%程度にすぎません。
つまり、「ずっと寝ているように見えても、外的な刺激に対してすぐに覚醒できる状態」こそが健康な猫の標準です。逆に、名前を呼んでも耳すら動かさない、好物のパウチを開ける音に反応しない、あるいは揺すってもぼんやりとして起き上がれないといった状態は、単なる生理的な眠気ではなく、意識障害や極度の衰弱を示唆する病気サインと捉える必要があります。