プロレス初観戦のライト層から最も多く寄せられるのが、「敗者髪切りマッチは本当に自分の髪を切っているのか?」「裏でカツラを用意しているのではないか」という疑問です。結論から言えば、日本のプロレス史において行われた主要な髪切りマッチは、ほぼ100%例外なく本人の自毛をその場で刈り落としています。
試合が決着した瞬間、セコンド陣によってリング中央に椅子が運び込まれ、敗者はそこに座らされます。勝者や立会人の手によってまずハサミがザクザクと入れられ、続いて持ち込まれた電気バリカンが無慈悲な音を立てて地肌を露出させていきます。場合によってはシェービングフォームが吹き付けられ、T字カミソリで完全にツルツルのスキンヘッドに仕上げられることすら珍しくありません。
髪を失っていくレスラーの表情には、激痛とは質の異なる精神的な屈辱、そして抗いようのない絶望が浮かびます。リングサイドに散乱する大量の黒髪と、それを呆然と見つめる観客の沈黙。テレビカメラが逃げ場のない敗者の顔面を執拗にアップで捉える光景は、いかなる流血戦よりも生々しく、観客の心に強烈な爪痕を残します。この「嘘偽りのなさ」こそが、観る者の倫理観を激しく揺さぶり続ける理由です。