江戸時代、坂の上から眺める富士山は人々にとって最高の憧れだった。浮世絵師の歌川広重は『名所江戸百景』などの名作において、坂道が織りなす空間の奥行きと、その向こうにそびえる富士の雄姿を見事に描いている。
都内にはかつて「富士見坂」と名付けられた坂が数多く存在した。時代の移り変わりとともに高層建築が建ち並び、富士山が見えなくなった場所も少なくない。しかし、日暮里の富士見坂をはじめ、今なお澄んだ冬の空の下で美しい夕景や遠くの山並みを望める撮影スポットは健在だ。広重が描いた構図と現代のビル群が交差する風景をカメラに収めるのは、都市の変遷を記録する贅沢なひとときと言える。