ネット上のデニムコミュニティでは、「ジーンズの裾上げはチェーンステッチでなければ価値がない」「シングルステッチの裾上げはダサい」といった言説が頻繁に交わされています。しかし、構造的な事実を検証すると、これは半分正しく、半分は過剰な神話に過ぎません。
デニム裾上げチェーンステッチ違いの本質は、環縫いと呼ばれる特殊な糸の交差構造にあります。ヴィンテージミシン(代表格である米国ユニオンスペシャル社製)で縫われたチェーンステッチは、糸の巻き込みテンションが不均一であるため、着用と洗濯を繰り返すことで生地が斜め方向に強烈に引き連れ、独特の「縄状のうねり(ローピング)」を生み出します。これが経年変化フェチを唸らせるアタリの正体です。対して、一般的な家庭用ミシンや手縫いによる「シングルステッチ(本縫い)」は、上下の糸が真っ直ぐ交差するため生地のねじれが起きにくく、うねりは控えめになります。ただし、解けにくさや耐久性の面ではシングルステッチの方が圧倒的に勝っており、ヴィンテージの経年変化を過度に追求しない現代のきれいめデニムであれば、手縫いやシングルステッチの方が裾のラインを直線的かつ端正に保てるメリットがあります。
それ以上に深刻なトラブルを引き起こす盲点が「水通し(糊落とし)の有無」です。裾上げ失敗しないコツと注意点の筆頭は、洗っていない新品の生デニム(リジッドデニム)をいきなり切断しないことに尽きます。綿100%の未防縮デニムは、最初の洗濯と乾燥により縦方向に3〜8%以上縮みます。股下75cmのデニムであれば、2〜5cm近く丈が短くなる計算です。「店や自宅で完璧に採寸して切ったはずなのに、一度洗ったらアンクル丈になってしまった」という悲惨な事例は後を絶ちません。防縮加工(サンフォライズド加工)が施されている現行品であっても、初回洗濯で1cm前後は縮むため、必ず「一度洗濯機で洗い、自然乾燥させて縮みきった状態」になってからハサミを入れるのが鉄則です。