騒動の発端を紐解くと、始まりは個人による不確かな一投稿だった。X(旧Twitter)をはじめとする主要SNS上で「中国の製紙工場が停止したため、トイレットペーパーが日本に入ってこなくなる」「マスクと同じ原料を使っているため、これから深刻な品薄になる」といった根拠のない言説が突如として拡散。これがYahoo!ニュースのコメント欄や個人ブログ、さらには口伝へと飛び火し、瞬く間に社会全体を覆う大波へと膨れ上がった。
当時、主要メディアや専門機関によるファクトチェック・検証報道が相次いで打ち出されたものの、一度解き放たれた集団的な不安の連鎖を止めることは容易ではなかった。人間は「もしかしたら本当かもしれない」「無くなってから後悔したくない」という強い危機回避バイアスに支配されると、打ち消し情報よりもリスクを告げる情報を優先して信じ込んでしまう。このとき発生した過剰な情報氾濫とデマの混迷は、まさにインフォデミックの病理そのものであった。結果として、トイレットペーパー品薄デマに突き動かされた人々が店頭へ殺到し、実需要を大幅に超える購買行動に走ったことで、虚構が現実の在庫切れを作り出すという皮肉な逆転現象が発生したのである。