福井でそばを語る上で欠かせないのが、名物「越前おろしそば」だ。しかし、東京の蕎麦屋の感覚でつゆにちょんと浸けてすするスタイルを想像していると、目の前に現れた器に度肝を抜かれることになる。
地元で愛され続ける老舗の暖簾をくぐり、店主に話を訊いた。「うちのそばは、喉越しを楽しむもんやない。噛み締めて、穀物の香りと辛味大根の刺激をまるごと味わうもんや」。そう笑いながら差し出されたのは、小ぶりな平皿に盛られた濃い色合いのそば。その上から、大根の絞り汁をブレンドした特製だしが惜しげもなくぶっかけられている。
驚くべきはその食べ方だ。地元民は迷わず全体を豪快にかき混ぜ、太めの麺をガッシリと噛み締めながら胃袋へと収めていく。大根の鮮烈な辛味が鼻を抜け、その直後に福井産在来種特有の濃密な甘みとナッツのような香ばしさが口内いっぱいに広がる。一杯では終わらない。地元客の多くが「二皿、三皿」とおかわりを重ねるのが福井の日常なのだ。