公衆衛生や感染制御の分野において、次亜塩素酸ナトリウム(Sodium Hypochlorite)は極めて信頼性の高い酸化型殺菌剤として位置づけられています。一般的なエタノール消毒液は、脂質二重膜を持つインフルエンザウイルス等には著効を示すものの、膜を持たない「ノンエンベロープウイルス」(ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど)に対しては効果が著しく低下します。これに対し、次亜塩素酸ナトリウムはウイルスのカプシド(タンパク質外殻)を直接酸化・破壊するため、極めて強力な不活化能力を発揮します。
厚生労働省が策定・更新している感染症法に基づく消毒・滅菌ガイドラインでも、ノロウイルス等の集団感染発生時における環境消毒の第一選択薬として指定されています。感染者の吐瀉物や排泄物が付着した床面には0.1%(1,000ppm)、手が触れるドアノブや手すり、リネン類の消毒には0.02%(200ppm)の濃度が標準基準として規定されています。
ただし、その殺菌力の源泉である強力な酸化作用と強アルカリ性は、生体組織や金属素材に対しても等しく攻撃性を持つという二面性があります。現場の医療従事者や衛生管理者は「薬効と毒性は表裏一体である」という原則を徹底しており、一般家庭においても適切な取り扱い手順の遵守が強く求められます。