事件から18年が経過した2015年6月、少年Aは元少年A名義で手記『絶歌』(太田出版)を突如刊行しました。この出版は、日本社会全体を巻き込む巨大な倫理的論争へと発展しました。
手記出版の真相と理由について、書籍の前半では事件に至る精神の歪みや医療少年院での更生プロセスが綴られ、後半では社会復帰後の孤独や葛藤が吐露されていました。著者側は「自らの罪と向き合い、社会に対して言葉で責任を果たすため」と主張しましたが、その出版手法はあまりに一方的でした。被害者遺族への事前説明や了解を一切取らない形での強行出版だったからです。
土師淳くんの父親である土師守さんをはじめとする遺族は、「命を奪っておきながら、その事件を題材に商業出版を行い、利益を得るなど断じて許されない」と激しく抗議し、書籍の即時回収を求めました。全国の多くの書店や図書館でも、遺族感情や社会的影響を考慮して棚からの撤去や貸出制限などの措置が取られました。
さらに世論を激怒させたのが、出版直後の2015年9月に彼が開設したとされる公式サイト「存在の耐えられない透明さ」と、有料ブロマガの配信計画でした。サイトには奇怪な自作アートや自身の裸体写真が掲載され、真摯な反省とは程遠い、自意識過剰な自己アピールと商業主義が露骨に現れていました。結果として世論の強烈な反発と批判を浴び、サイトは短期間で閉鎖に追い込まれました。
この出版劇で得られた数千万円規模とされる印税は、一部が被害者への損害賠償に充当されたと報じられているものの、遺族の多くは「金銭で片付けられる問題ではない」「傷口に塩を塗られた」と語っており、遺族との真の和解には至っていません。