「満月が近づくとなぜか眠れない」「新月の日は頭痛やダルさが抜けない」――長年、科学界ではこれらは単なる主観的な思い込みや迷信として退けられてきました。しかし2020年代以降、世界のトップサイエンス誌に掲載された画期的な論文群によって、生体リズムと月周期の決定的な繋がりが実証され始めています。
決定打となったのは、米ワシントン大学、エール大学、アルゼンチン国立キルメス大学の共同研究チームが世界的学術誌『Science Advances』に発表した大規模調査です。研究チームは、電気インフラの恩恵を受けていない先住民族コミュニティから、街灯が煌々と照る米シアトルの大都市住民まで、多様な環境下にある数百人の被験者にリストバンド型睡眠計を装着させ、数年間にわたり睡眠動態を追跡しました。
その結果、驚くべき事実が判明しました。満月の3〜5日前の夜、被験者たちの就寝時間は平均して最も遅くなり、睡眠時間は都市部であっても30分から50分短縮していたのです。この現象は電気の有無に関わらず確認されました。さらにスイス・バーゼル大学のカヨヘン教授らによる先駆的研究(『Current Biology』掲載)でも、実験室の完全な暗闇の中で被験者を隔離した状態であっても、満月の夜には以下のような劇的な生体変化が計測されています。
- 脳波測定における深い眠り(ノンレム睡眠の徐波活動)が30%減少
- 入眠にかかる時間が通常より平均して5分延長
- 夜間の睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌量が有意に低下
研究者らは、人間が人工的な照明を手に入れる以前の数十万年間、満月前後の月明かりの下で夜間狩猟や集団活動を行っていた進化の記憶が、内因性の「サーカルナリズム(概月リズム)」として遺伝子レベルで刻まれている可能性を指摘しています。つまり、満月に体調や気分が高揚して眠れなくなるのは、あなたの意思が弱いからでも気のせいでもなく、人類の生存本能に刻まれた正当な生理反応だったのです。
また、生理周期と月のリズム関係についても多くの女性が関心を寄せています。女性の月経周期の平均(約28日)と朔望月(約29.5日)が極めて近い数値であることは、長らく偶然の一致とされてきました。しかしヴュルツブルク大学などの近年のクロノバイオロジー(時間生物学)研究では、大気汚染や夜間人工照明に晒されていない環境下の女性ほど、月経の開始が新月または満月と同期する割合が高いことが示唆されています。現代人の不規則な生活やブルーライトの氾濫がその同調を乱しているだけであり、生物としての原初的なリズムは依然として月と同調する設計になっているのです。