壮大な洋楽ロックであった原曲が、なぜ日本の昭和茶の間を震撼させる歌謡アンセムへと変貌を遂げたのか。その鍵は、作詞家・森浩美による卓越した日本語訳詞と、アレンジャー・戸塚修の手腕にありました。
1985年秋から放送されたフジテレビ系大映ドラマ『ヤヌスの鏡』は、宮脇明子の漫画を原作に、厳格な家庭環境で育った優等生・小沢裕美(杉浦幸)が、夜になると凶悪な不良少女・大沼ユミへと豹変する二重人格サスペンスでした。森浩美が手がけた日本語詞は、単なる英語の直訳ではありません。「見えない翼ひろげて」「誰かが私を呼んでいる」といったフレーズに象徴されるように、自分の内側に潜むもう一人の自分との葛藤、夜の街へ引きずり込まれる少女の孤独と焦燥が生々しく描き出されています。
音楽構造の面でも、原曲と椎名恵版には決定的な違いが存在します。原曲『Tonight Is What It Means to Be Young』が長大なイントロや重層的なクワイアを伴う6分超の構成であるのに対し、椎名恵の『今夜はANGEL』は約4分弱へとコンパクトに凝縮されています。テレビドラマのオープニング映像と完全にシンクロするよう、緊張感を煽るシンセサイザーのシーケンスとタイトなドラムビートが配置され、一瞬にして聴く者を物語の深淵へと引きずり込む歌謡ロックへと再構築されたのです。