三宮駅を北へ抜け、異人館街へと続く北野坂の入り口近くに位置する「神戸牛丼 広重」。オープンから現在に至るまで、テレビ特番やグルメ雑誌、世界的な旅行ガイドブックで幾度となく取り上げられてきましたが、店内は創業当時と変わらぬ店主による丁寧なワンオペレーション(または少人数体制)が貫かれています。効率化や店舗拡大に舵を切らず、一杯ごとの品質を極限まで保ち続ける職人気質な姿勢こそが、行列を途絶えさせない最大の要因です。
広重が提供する牛丼は、一般的な牛丼チェーンのような「大鍋でタレとともに煮込む」スタイルとは根本から異なります。店主は名店で腕を磨いた元イタリアンシェフ。選び抜かれたA4〜A5ランクを中心とする神戸牛のスライスを、注文が入るたびに特製の割り下とともにフライパンで手際よくソテーし、ベストな火入れで炊きたてのご飯の上に盛り付けます。牛肉の脂の融点が極めて低い神戸ビーフの特性を熟知しているからこそ、肉の繊維を硬化させず、芳醇な香りと甘みを閉じ込めた状態で提供できるのです。
現場を観察すると、店内には香ばしい醤油とみりんの甘辛い香りが漂い、フライパンが軽快に振られる音が響きます。席数が約10席と非常に限られていることに加え、一杯ずつ丁寧に焼き上げる工程を踏むため、1回転(10名程度)の案内に約25〜35分を要します。この物理的な滞留時間と調理への妥協なきこだわりが、結果として三宮屈指のプレミアムな行列体験を生み出しています。