ネット上の掲示板やSNSで「メロスはおかしい」「クズ男ではないか」と糾弾される要因は、単なる移動スピードの遅さだけにとどまらない。登場人物たちの倫理観や行動の整合性に目を向けると、看過できない矛盾点が次々と浮上する。
最大のツッコミどころは、親友セリヌンティウスに対する極めて理不尽な人質要求だ。メロスは王宮に忍び込み、短剣を懐に忍ばせていたところを捕縛されたテロ未遂犯である。王から死刑を宣告されると、「妹の結婚式を挙げるため3日間の猶予がほしい。代わりに親友を人質として置いていく」と言い出す。驚くべきことに、メロスはこの重大な決断をセリヌンティウスに一言の事前承諾も取らず独断で提案している。
召喚された石工のセリヌンティウスは、何も事情を知らぬまま深夜に叩き起こされ、王の前でいきなり死刑の身代わりとして縄を打たれる。拒否権すら与えられない状況で「無言でメロスに頷いた」と美談化されているが、現代の法規範や対人関係の常識から見れば、迷惑行為以外の何物でもない。
さらに読者の反感を買うのが、メロスの内面における自己中心的な思考のブレだ。道中で疲弊したメロスは、以下のような身勝手極まりない独白を展開する。
- 自暴自棄による親友の切り捨て:「私は信頼に報いようと努めた。裏切る気などなかった。神よ、私を見捨てたのか」「セリヌンティウスよ、許してくれ。お前を殺すのは私ではない、悪天候だ」と責任転嫁を始める。
- 自己保身と道徳的優位の獲得:「いっそこのまま死んでしまえば、私は義理堅い男として死ねる。セリヌンティウスは死ぬが、それは運命だ」と、自分が善人のまま終わるための言い訳を並べ立てる。
- 急な妹の強制結婚:妹の結婚式を成立させるため、相手の男性の都合を無視し、「明日にでも式を挙げろ」と強引に話をまとめ、家族を振り回す。
約束の期限である日没が迫ってから慌てて走り出し、ギリギリで処刑台に滑り込んだメロスは、再会したセリヌンティウスに対して「私を殴れ。道中で一度だけお前を裏切ろうとした」と告白する。するとセリヌンティウスも「私を殴れ。一度だけお前を疑った」と返し、互いに頬を殴り合って涙を流して抱き合う。この幕引きに対し、ネット上では「巻き込まれた挙句に3日間牢獄に入れられ、最後に見知らぬ群衆の前で顔面を殴られるセリヌンティウスが不憫すぎる」「殴り合ってチャラにする体育会系的なノリで誤魔化している」と厳しい指摘が相次いでいる。