デビュー曲『つつみ込むように…』のイントロで日本中を震撼させたのが、人間の声とは思えないほど澄み切った超高音、いわゆるホイッスルボイスでした。彼女のキャッチフレーズとして定着した「5オクターブの歌唱力」は、単なる宣伝文句にとどまりません。
一般的な女性歌手の音域が約2オクターブから2オクターブ半程度であるのに対し、MISIAは深みのあるアルト域から、ソプラノの限界を超えた超高音域までをカバーします。音楽プロデューサーやボイストレーナーの分析によると、その卓越した歌唱力は以下の3つの要素によって支えられています。
第一に、声帯の閉鎖筋群を極めて精密にコントロールする技術です。これにより、喉に余分な力を入れることなく、針の穴を通すような繊細なピッチと、スタジアムの最後列まで突き抜ける強靭な音圧を両立させています。第二に、幼少期から体得した深い腹式呼吸による呼気圧の安定性です。ブレスの音がほとんど気にならないほど滑らかなレガート(音と音を滑らかにつなぐ奏法)は、長年の鍛錬の賜物といえます。
そして第三に、ソウルやゴスペル特有のグルーヴを日本人離れしたリズム感で表現できる天性のタイム感です。音源をそのまま再現するだけでなく、ライブステージで感情の波に合わせてフェイクやアドリブを自在に操る生歌の安定感こそが、彼女が「本物のボーカリスト」と称賛される最大の所以です。