福島第一原発事故後、放射性物質濃度が1キログラムあたり8,000ベクレルを超える指定廃棄物の長期管理施設について、環境省は栃木県内での集約処分を目指していました。その白羽の矢が立ったのが、塩谷町上寺島地区に位置していた塩谷町自然休養村センター周辺の国有林および町有地でした。
当時、環境省が提示した選定理由は主に以下の4点でした。
第一に「公有地(町有地・国有林)を主体としているため用地取得が比較的容易であること」、第二に「一般集落から一定の離隔距離が確保されていること」、第三に「主要道路からのアクセスルートが確保できること」、そして第四に「地形的に平坦なスペースが確保可能であること」です。国側は地理情報システム(GIS)を用いた机上スクリーニングを重ね、この地を最適候補地と結論づけました。
しかし、この選定は現地の実情を根底から無視した暴挙として、即座に猛烈な反発を招くことになります。最大の矛盾は、候補地とされた場所が全国名水百選に名高い尚仁沢湧水の涵養域(水源地)の至近距離に位置していた点です。尚仁沢湧水は日量約6万5,000トンもの清冽な水を噴出させ、塩谷町のみならず宇都宮市など周辺自治体の重要な水道水源となっています。
さらに、候補地周辺には断層の存在が指摘されていたほか、急傾斜地崩壊危険区域に隣接しており、土砂崩れや豪雨による施設損壊のリスクが極めて高いエリアでした。「机上の地図データだけで線を引き、命の水を育む水源地の上に放射性廃棄物の候補地を据えるなど到底受け入れられない」という怒りの声が町全体を包み込みました。