なぜ整備された最新鋭のジェット旅客機が、滑走路を離れた直後に氷水へと沈むことになったのか。事故調査を指揮した国家運輸安全委員会(NTSB)の報告書が明らかにしたポトマック川墜落事故の真相は、複数のヒューマンエラーと特異な物理現象の連鎖でした。
直接的な引き金となったのは、主翼とエンジンに装備された防氷装置(アンチアイス)のスイッチを入れ忘れていた事実です。この怠慢により、エンジンの推力を測る極めて重要なセンサーである「エンジン圧力比(EPR)プローブ(ピトー管)」の先端が氷によって完全に塞がれてしまいました。
ピトー管が閉塞した結果、コックピットの計器には「実際よりもはるかに高い推力」が表示される致命的な誤表示が発生。パイロットたちは離陸に必要な正規の推力(EPR 2.04)に達していると信じ込んでスロットルを固定しましたが、実態はエンジン推力のおよそ70〜75%程度しか出力されていませんでした。
ただでさえパワーが著しく不足していた機体の主翼上面には、再凍結した氷がびっしりと張り付いていました。氷の付着は翼の揚力を劇的に奪い、失速を起こす迎角を大幅に引き下げます。離陸速度(V2)に達して機首を上げた瞬間、機体は激しいスティックシェイカー(失速警報装置)の振動に見舞われ、高度わずか100メートル前後までしか上昇できずに浮力を完全に喪失しました。
制御不能に陥った機体は、空港北側に架かる14丁目橋 衝突被害と犠牲者を生み出す形で直撃。通勤ラッシュで混雑していた橋梁上の車両7台を押し潰し、通行人4名の命を瞬時に奪った末、そのまま極寒のポトマック川の氷面を突き破って冷たい川底へと水没したのです。