物語の冒頭、召喚されたばかりで右も左も分からない尚文に唯一優しく寄り添う素振りを見せ、翌朝には「強姦された」と偽って全財産と名誉を強奪したマイン。なぜ彼女は、初対面にすぎない尚文をこれほど執拗に破滅させようとしたのか。その背景には、メルロマルク王国の政治・宗教・家族関係が複雑に絡み合った3つの構造的要因が存在します。
第1の要因は、メルロマルク王国に根付いていた「三勇教」による盾の勇者排斥思想です。メルロマルクでは剣・弓・槍の三勇者を崇め、盾の勇者を「悪魔」とみなす宗教的偏見が国教レベルで定着していました。三勇教の幹部たちと密通していた彼女にとって、盾の勇者を無力化し社会的に抹殺することは、宗教勢力を味方につけるための最も手っ取り早い実績作りに他なりませんでした。
第2の要因は、妹メルティへの激しい嫉妬と王位継承権の奪還です。マインの本名はマルティ=S=メルロマルクであり、本来は第1王女でした。しかし、素行の悪さや虚言癖を見抜いていた賢帝・母ミレリアによって王位継承権を剥奪され、次女メルティが正統な後継者に指名されていました。これに激怒したマルティは、自らの権力を誇示し王座を力づくで奪取するため、御しやすい父王オルトクレイを抱き込み、勇者召喚に乗じて国家規模の自作自演を仕掛けたのです。
第3の要因は、彼女自身の底なしの加虐嗜好と自己愛です。他者を騙し、見下し、破滅の淵に追いやる瞬間に至高の快感を覚える人格破綻者であり、真面目で疑うことを知らなかった召喚直後の尚文は、彼女にとって「最もいたぶりやすい格好の獲物」に過ぎませんでした。