「過去問を3年分完璧に解き直して臨んだのに、本番の模試では大問3以降がまったく手につかなかった」――これは、全国の高校1年生から毎年数多く寄せられる悲痛な叫びです。教育現場の取材を進めると、過去問演習をこなしている生徒ほど陥りやすい認知心理学上の罠が存在することが分かります。
それが「流暢性の錯覚(知っているつもり現象)」です。過去問の模範解答を眺め、赤ペンで書き写して「理解した」気になると、人間の脳はそれを自力で解く能力が身についたと錯覚します。しかし進研模試の高1数学は、教科書の基本例題をそのまま出題することはまずありません。複数の小問(1)(2)(3)を通じて段階的に難易度を上げ、前の設問の結果をヒントに次の設問を解かせる「誘導形式」が敷かれています。
高校現場で数学科指導を行う主任教諭は、次のように警鐘を鳴らします。「過去問演習を単なる『答え合わせゲーム』にしている生徒は、問題文の数値が変わったり、誘導の切り口が少し変わっただけで思考停止に陥ります。過去問は解法を覚えるための教材ではなく、自分がどの基本概念を使いこなせていないかをあぶり出すための診断装置に過ぎません」。過去問の解答をいくら暗記しても、初見の誘導文を読み解く論理的読解力が鍛えられていなければ、模試本番の偏差値は1ポイントも上がらないのが冷酷な真実です。