『江』を語る上で長年ネット空間に残り続けた風評の一つに、「上野樹里が役作りに失敗し、『のだめ』の延長線上で軽々しく演じてしまった」という論調があります。しかし、これは明確な誤解です。
田渕久美子の執筆方針として、序盤の江は「既存の戦国ドラマに染まっていない、無垢で純粋なエネルギーの象徴」として意図的に現代的なキャラクター付けがなされていました。演出陣からも「お姫様然とした型にハマらず、獣のように山野を駆け回り、本能のままに動いてほしい」という強いリクエストが下されていたことが、当時の制作リポートから明らかになっています。
つまり、上野樹里は自分勝手にポップに演じたのではなく、制作陣が掲げた「これまでにない大河ヒロイン像」という挑戦的なオファーに愚直に応えた結果だったのです。脚本と演出の狙いを忠実に遂行した役者が、過激なバッシングの矛先を一身に受けてしまったというのが当時の実情でした。後年、彼女が『監察医 朝顔』や『持続可能な恋ですか?』などで見せた静かで精緻なリアリズム演技を鑑みれば、当時からすでに突出した表現力を保持していたことは疑いようがありません。