法律で義務付けられ、プロによる安全確保の価値があるにもかかわらず、なぜ現実には「受けない」選択をする人が多いのでしょうか。
国土交通省と自動車関係団体で構成される「自動車点検整備推進協議会」などの調査データによると、自家用乗用車の法定12ヶ月点検の実施率は全国平均で30〜40%台に留まっています。実に半数以上のドライバーが、12ヶ月点検を素通りしているのが日本の車社会のリアルな実態です。
大手ネット掲示板やSNS、知恵袋の投稿を分析すると、ドライバーの生々しい本音が浮き彫りになります。
「新車から7年間、車検しか受けていないが一度も故障したことがない」
「ハガキが来るたびに1万数千円取られるのが嫌で捨てている。車検だけで十分走れる」
「ディーラーの営業ノルマに付き合わされている気がして不快だ」
こうした声の背景には、日本車が世界的に見ても驚異的な耐久性を誇るという実績があります。オイル交換さえ適時行っていれば、日常的な走行で突然車が止まるような事態がめったに起きないため、ドライバーの間に「何もしなくても壊れない」という強固な正常性バイアスが刷り込まれてしまっているのです。
心理学や社会学の観点から見れば、これは「目に見えないリスク回避に対するコスト忌避」の典型例と言えます。故障という具体的な損害が発生していない状態では、点検にかかる1万円強の費用は「何の見返りもない損失」として脳内で認識されがちです。
しかし、整備現場のベテランメカニックに取材すると、全く異なる危険な光景が語られます。
「12ヶ月点検で入庫した車をリフトに上げたら、ドライブシャフトのゴムブーツが真っ二つに裂けてグリスが飛び散っていたり、ブレーキパッドが残り1ミリを切ってローターを削る寸前だったりすることは日常茶飯事です。もし車検までのあと1年間放置していたら、高速道路での制動不能や足回りの破損で重大事故に直結していたはずのケースが山ほどあります」(都内・整備工場代表)
壊れないのではなく、「重大な故障や事故の予兆を、ドライバー本人が気づかないまま放置して乗り続けているだけ」というのが現場の厳しい診断です。