「作中に出てくる糸守湖は、諏訪湖そのものなのか?」という疑問に対し、制作関係者への過去の取材記録や公開当時の公式インタビューを紐解くと、興味深い構造が浮き彫りになります。結論から述べれば、公式設定資料やプレス発表において「諏訪湖=糸守湖」と直接断定された一文は存在しません。しかし同時に、新海監督自身のルーツや美術スタッフのロケーション構築において、諏訪湖の存在が決定的なインスピレーションを与えたことは業界内で公然の事実とされています。
新海誠監督は長野県南佐久郡小海町の出身であり、雄大な信州の山々と湖沼に囲まれて多感な少年期を過ごしました。監督自身、過去の舞台挨拶やメディア取材において「特定の湖をそのまま写し取ったわけではないが、自身の身体に染みついた信州の湖や風景の記憶が無意識のうちに背景美術のベースになっている」という主旨の発言を重ねています。盆地にすっぽりと収まり、周囲を山並みに囲まれた円形の水面という骨格は、諏訪盆地と諏訪湖の地理的特徴そのものです。
さらに美術設定の変遷を検証すると、糸守町は実在する単一の集落を模写したものではなく、複数の日本の原風景を高度に融合させた架空の町であることがわかります。岐阜県飛騨地方の伝統的な町並みや飛騨市図書館、東京都心の洗練された都市景観、そしてカルデラ地形のヒントとなった伊豆諸島の青ヶ島。それらのピースを繋ぎ合わせる中心軸として、信州の諏訪湖が選ばれたという解釈が最も自然であり、ファンの間でも共通認識となっています。