筆者が都内の総合周産期母子医療センターおよび地域産科クリニックの助産師・産科医らに取材を重ねる中で浮き彫りになったのは、妊婦たちが抱える深い葛藤です。SNSや知恵袋の投稿を分析しても、「病院に電話して『大げさな人』と思われたくない」「夜間に当直医の手を煩わせるのは申し訳ない」という、過度な遠慮から受診を躊躇する心理が極めて根強く存在します。
ある総合病院の助産師長は、診察室の現実を次のように証言します。「『お腹の張りはあるけれど出血はないから、次の妊診まで我慢しようと3日間耐えていた』と来院された初産婦さんがいました。内診すると子宮頸管長はすでに12mmまで短縮し、胎胞形成(赤ちゃんの入った袋が膣内へ脱出しかける状態)寸前でした。本人は『痛いけれど激痛ではなかったから』とおっしゃるのです。妊婦さんの主観的な痛みの強さと、体内の切迫度は必ずしも比例しません」。
また、生理的な腹痛において妊娠中期下腹部痛横になると治まる理由についても、正しい理解が欠けている場面が目立ちます。仰臥位(あお向け)から側臥位(左側を下にしたシムス位など)へ体位を変えて横になると、下大静脈への圧迫が解除されて子宮への血流が劇的に改善し、子宮筋の筋緊張が緩みます。靭帯への物理的牽引も解除されるため、生理的な張りや靭帯痛であれば、安静後20〜30分程度で腹部はふんわりと柔らかくなり、痛みもフェードアウトしていきます。
しかし、「横になって30分経っても、1時間に何度もカチカチに硬くなる」「おでこや鼻の頭ではなく、顎(あご)を触ったときのような硬さが持続する」という場合は、物理的休息の限界点を超えた病的な収縮です。現場の医療従事者が一様に口を揃えるのは、「何もなければ『異常なしで良かったですね』で済む。迷って手遅れになることほど恐ろしい事態はない」という揺るぎない共通認識です。