筋トレ愛好家や格闘技ファンの間では、前鋸筋は通称「ボクサー筋(Boxer's Muscle)」として親しまれています。ストレートパンチを放つ際、拳を相手の顎へ最後の一押しとして突き出す動作(肩甲骨の外転)で強烈に収縮することから名付けられた呼称です。
しかし、ここにはフィットネス界隈でしばしば見落とされる大きな盲点があります。「ボクサー筋=パンチを繰り出す筋肉」というイメージだけが先行し、押し出す力(外転)ばかりを鍛えすぎると、前鋸筋の上部線維が硬直して肩甲骨が外側に引っ張られ、胸筋の過緊張と相まって重度の「巻き肩」を加速させてしまう危険性があります。
本来ボクサー筋として真に評価されるべき役割は、単に前に押し出すことではなく、相手のパンチをガードした際や強打した瞬間に「腕から伝わる衝撃を胸郭全体へ分散させて肩関節を脱臼や損傷から守るショックアブソーバー(安定化機構)」としての機能です。この安定化作用を理解せず、単に外転運動ばかりを反復することは、姿勢バランスを著しく崩す要因になりかねません。